「本州一寒い場所」として知られる岩手県盛岡市、薮川(やぶかわ)。
夏は涼しく、北欧を彷彿とさせる絶景を無料で楽しめるキャンプ場があります。
今回の宮城〜岩手ツーリングの宿営地として選んだのは、岩洞湖家族旅行村。
(正確には、その管理区域内にある無料のフリーサイトです。)
しかし、いざ現地へ行ってみると、そこが目的のキャンプ場かも分からない。
利用方法も分からず、戸惑うばかり。
さらには嵐に見舞われ完全孤立する中、風に乗って漂ってきた「独特の獣臭」。
自然の猛威と得体の知れない恐怖……。
この記事では、初めて訪れる人が迷わないための「利用ガイド」をお伝えできればと思います。
そして後半の体験レポートでは、あの一晩に起こっていた戦慄の事実についてもお伝えします。
まずは、私が現地で圧倒された「魅力」のほうからどうぞ。
岩洞湖家族旅行村キャンプ場で感じた3つの魅力

どこまでも白樺が続く、北欧のようなロケーション
キャンプ場へ足を踏み入れてまず驚くのは、白樺の白い幹がどこまでも整然と並ぶ景観です。
目の前に広がる白樺と、その隙間から僅かに見える湖との調和は、国内とは思えないほど。
この日は水位がかなり引いており、水面は遥か遠くに見える程度でしたが、
それでも木々の隙間からのぞく風景は独特の旅情を感じさせてくれました。

後で知ったことですが、この岩洞湖はダムによって作られた「人造湖」なのだそう。

「予約不要・無料」
天候や走行距離に合わせて宿営地を柔軟に決められるフットワークの軽さは、長距離を走るライダーにとって最大のメリットです。
※岩洞湖家族旅行村キャンプ場のオートキャンプ場は有料です。(1区画3,300円)
無料とは思えない「高床式ウッドデッキ」と嬉しい「設備」
このキャンプ場の最大の特徴である、誰でも自由に選べるウッドデッキ。
雨が降っていてもテントの底面は綺麗なまま。
撤収時に泥を拭き取るストレスがないのは、実利面で非常に大きな強みです。
またゴミが無料で廃棄できるのは大きなメリット。
トイレットペーパーも完備されています。
岩洞湖家族旅行村キャンプ場 基本データ

| 訪問年月 | 2025/8 | 晴・嵐/大雨 |
| 名称 | 岩洞湖家族旅行村(無料キャンプ場) | https://www.city.morioka.iwate.jp/ shisetsu/sports/koen/1006912.html |
| 場所 | 〒028-2711 盛岡市薮川字亀橋33-4 | 019-681-5235 |
| 業態 | 公営 | 盛岡市 |
| ロケーション | 湖畔、林間 | ※白樺林 |
| サイト | フリー区画ウッドデッキサイト/フリーサイト | 硬 □□□☑□ 柔 |
| サイト規模 | 中規模 | ウッドデッキサイト 28ヵ所 |
| 営業期間 | 5/1~10/27日まで(2025年度) | 定休日 なし ※期間中無休 |
| 予約方法 | なし | ※岩洞湖家族旅行村にて受付 |
| in / out | なし | |
| 料金(利用プラン) | 無料 | |
| (内訳) | 駐車料金 | なし |
| 施設利用料 | なし | |
| 備考 | 利用には必ず管理棟にて申請が必要 | |
| 岩洞湖家族旅行村 | 受付時間 9:00~16:00 | |
| 売店 なし | ||
| レンタル なし | ||
| 薪 あり | 広葉樹(白樺) 700円 | |
| 設備 | トイレ:1ヵ所 | 水洗・和式便座/バリアフリートイレ有(洋式) |
| 風呂:なし/シャワー:なし | ||
| 炊事棟:2ヵ所/水場:1ヵ所 | ||
| 灰捨て場:あり | ※炊事場内一斗缶 | |
| その他施設:なし | ||
| ごみ | 分別して廃棄可 | ※粗大ごみ、発砲スチロール、電池は不可 |
| 直火の可否 | 不可 | |
| 薪の調達状況 | 不可 ※県立指定公園内のため | 易 □□□□☑ 難 |
| 電波状況 | 普通 | ※楽天モバイル |
| 客層(主観) | ソロ □☑□□□ ファミリー | |
| 獣・虫 | 熊 | ※目撃情報あり |
| サイト内路面状況 | 土 | 乗り入れ不可 |
| 買い出し | スーパーマーケット | ジョイス 盛岡緑が丘店 約40.4km |
| コンビニ | ファミリーマート 盛岡松園南口店 約37.4km | |
| その他 | 岩洞水天宮 | 岩洞湖中央に鎮座 |
岩洞湖家族旅行村キャンプ場 予約はどうする
予約不要ですが、受付は岩洞湖家族旅行村の管理棟窓口で利用手続きをする必要があります。

岩洞湖家族旅行村キャンプ場 白樺林に佇む「高床式ウッドデッキ」のフリーサイト

- フリーサイト
- 高床式ウッドデッキサイト(28区画)
- 乗り入れは不可 ※荷車あり
岩洞湖家族旅行村の無料エリアは、美しい白樺林の中に広がる完全フリーサイトです。
その時の天候や自分のスタイルに合わせて、設営場所を自由に選べるのが魅力です。
サイト内は傾斜があり、湖畔側より段々と高くなっていく地形となっています。
「ウッドデッキ」か「地面」か、自由な設営
サイト内には、傾斜地でも水平を保てるよう調整された高床式のウッドデッキが整然と並んでいますが、必ずしもそこを使う必要はありません。
雨天時や地面のコンディションが悪い時は、デッキの上が最強の避難先になります。浸水や泥汚れの心配がなく、撤収が楽になります。
フリーサイトでありながら、デッキという「区画」が点在しているおかげで、隣のキャンパーと適度な距離感を保ちやすいのも隠れたメリット。
ロケーションにこだわりたい方は地面への設営もアリです。
デッキに縛られず、自分だけのベストポジションを探す楽しみがあります。
「非自立式テント(ワンポールテントなど)」でペグダウンが必須な場合や、デッキに収まりきらない大型のテント・タープを使いたい場合でも、お気に入りの場所を見つけて設営できます。

車両の乗り入れ不可と荷物運搬のコツ
こちらの無料キャンプ場は、車両の乗り入れは不可となっています。
車両はサイト入り口の駐車スペースを利用します。

ゴミ置き場横の建物に「荷車(リヤカー)」が用意されています。

サイト内は車両の乗り入れができないため、駐車場から荷物を運ぶ必要がありますが、
ここには初見では気づきにくい「高低差の罠」があります。
入口にチェーンが張られているので駐車場までリヤカーを引いていくことはできません。
- 地形の注意点: 駐車場はキャンプサイトよりも一段高い場所に位置しています。
サイトへ降りるルートは大きく分けて「階段」と「チェーンの張られたスロープの入り口」の2つがあります。

- 階段ルートは難所: 駐車場からすぐの階段を降りるルートは、一見近道に見えますが、段差が急であったり足元に溝があったりと、リヤカーを使ってもかなりの重労働になります。
特に撤収時の運び出しはかなり難儀します。

- おすすめは「チェーン入り口」への迂回: 比較的楽に搬入出するコツは、駐車場隣にある「チェーンが張られている入り口(スロープ側)」までリヤカーを持っていき、そこを拠点に荷物を運び入れるほうがリヤカーの機動力を活かしてスムーズに荷運びができます。

岩洞湖家族旅行村キャンプ場 施設の様子

岩洞湖家族旅行村の無料エリアは、シンプルながらも旅人に必要な設備が整っています。
ただし、受付場所が少し離れているなど、初見では戸惑うポイントもあるため事前に確認しておきましょう。

岩洞湖家族旅行村 管理棟

岩洞湖家族旅行村キャンプ場内に管理棟はありますが、閉めきられておりほぼ無人です。
受付はこのキャンプ場から1km先の岩洞湖家族旅行村オートキャンプ場の管理棟にて受付する必要があります。


利用申込書に住所、氏名などを記載し受付をします。

販売品は薪のみです。
白樺の薪が一束700円でした。

岩洞湖家族旅行村キャンプ場 炊事棟

炊事棟は場内2ヵ所にあります。


片側に水道、反対側に釜土が備え付けられています。

夜間の電気点灯は、外側に備え付けられているボックス内のスイッチを手動で入れます。

岩洞湖家族旅行村キャンプ場 トイレ

岩洞湖家族旅行村キャンプ場内にトイレは1棟あります。
男女別の他、バリアフリートイレがあります。
便器は和式です。
利用料は無料なのに、トイレットペーパーが備え付け。予備もあるのが嬉しいです。

手洗い場所には各蛇口ごとに鏡が備え付けられています。
モノを置くスペースはあまりありません。

バリアフリートイレは洋式です。


ちなみにバリアフリートイレは『自動ドア』とありましたが、通電しておらず手動でした。
故に施錠ができないので利用には注意が必要です。(2025年8月時点)


岩洞湖家族旅行村キャンプ場 灰捨て

灰や消し炭は炊事棟内の一斗缶に廃棄することができます。
岩洞湖家族旅行村キャンプ場 ゴミはどうする?

岩洞湖家族旅行村キャンプ場ではゴミを無料で廃棄することができます。
専用の倉庫があります。
ドアのサッシを横に開けると中には可燃・不燃ごみを置く棚と、缶・ビン・ペットボトルのくずかごがあります。


可燃・不燃の分別をし廃棄しましょう。袋はなんでもよいそうです。
※獣を寄せ付けないように必ず扉はぴったりと閉めましょう!絶対!
岩洞湖家族旅行村キャンプ場体験レポ:岩手ツーリングの果てに。白樺の森の静寂と、忍び寄る形のない違和感の正体
前泊地の宮城から、愛車を走らせた岩手ツーリングの道のり。
この日は晴れ。相変わらずの熱気の中バイクを走らせる。

今回のキャンプ旅は『温泉』をテーマにしていた。
岩手の温泉地で選んだのが岩手県花巻にある鉛温泉。
インパクトのある名前に惹かれ、その温泉がある藤三旅館へ。


総けやきづくりの三階建ての建物は、まるで「千と千尋の神隠し」のような雰囲気。
新日本百名湯、日本温泉遺産日本百名湯にも選出されているそうだ。
白猿の湯は必見!レトロな建築美、見上げるほどの高い吹き抜け、立って入るという独特のスタイルが面白い。まさに『名湯』の名にふさわしい空間。混浴だって?!男独りの貸切状態で楽しんだ。w
時間帯により入れる湯は限られる。他に銀の湯も入浴した。目の前の川の景色とサウナが良かった。
鉛温泉 藤三旅館
日帰り料金:大人800円
※各湯入浴時間があるので事前に要確認。
※旅館脇の駐車場は宿泊者専用。日帰りは県道沿いの駐車場へ。

お目当ての温泉も入れたし、次は岩手グルメと勤しもうか。
カツカレーが食べたくなって。
私、何故かロングのキャンツーするときに度々こんな衝動に駆られます…。
やってきたのは盛岡市の『盛岡食堂』。

独特な活気は、まさに愛すべき大衆食堂の雰囲気。
ここでいただいたカツカレーは必食!。
サクサクの大きなカツに、私好みのどろっとしたコク深いルーが中華皿に盛られている。
ちなみに他のメニューでは、から揚げ定食が人気みたい。

盛岡食堂
カツカレー 800円

この一皿で気合を入れ直し、いよいよ目的地の岩洞湖へと。
と、その前に買い出ししないと。キャンプ場までの道中、ここを過ぎるとスーパー等はなさそうだ。
近くのにあったジョイス盛岡緑が丘店で買い出し。地元スーパー?
そうそう、東北と言えばコレ!焼きそばバゴーン。非常食にでもかっとこ。
(現地でしか買えないと思ったらネットで買えるのね…。)

ジョイス盛岡緑が丘店

国道455号を北東へ。街並みは消え、だんだんと山深い雰囲気に。
『岩洞湖家族旅行村』の標識が現れ、ハンドルを左に切り国道を離れる。

左側に青い湖面がキラキラと現れた。
これが岩洞湖か、きれいだなぁ。

坂道をぐいぐい登るトルク音と共に、キャンプ場への期待感も加速していく。
湖の姿が消え、山道が続く。左手に突然キャンプ場のような場所が現れた。

はて?まだ目的地にはついていないが…?
この先、道は突然砂利道のダートと化した。

しばらく進んでみるが、砂利が深くなってゆく。
今までの経験上、愛車のノーマルタイヤではさばききれない予感がして踵を返し、
地図上にはないキャンプ場を目の前に立ち尽くす。

ここでいいのか?
グーグル先生の指し示す場所より大分手前なのだが…。
駐車場から見える管理棟へ向かうが、誰もいない。
そもそも扉がどこかも分からず、中へ入れそうもない。
サイトのほうへ目をやると、白樺林にウッドデッキが整然と並んでいる。

おおぅ、いいロケーション!
キャンパーは誰ひとりとしていない。ただそのにあるのは静寂な雰囲気。
場内をぐるぐる回ると、受付に関することが書いてある立て札を見つけた。

管理棟っていったって、ダレモイナイシドウシヨウ。
隣には『熊出没注意』の立て札が…。

その時、じゃらじゃらとした音が遠くのほうから聞こえてきた。
見ると入り口を封鎖していたチェーンを外し、車に乗り込む人の姿。
ひと、いたの?全く気配がしなかった。
「おうぃーまってくれぇぇ…」
エンジンをかけトコトコと外へ出ていく。
その後を車道まで追いかけるが、遠くに去っていく軽自動車。
ふと上を見上げると標識があったことに気づく。

ん?管理棟?
やはりグーグルナビが指し示すよう、この先へ行かねばならないようだ。
さっきの道を更に進むのか…。仕方がない、行くか。

車道は工事をしていた。
管理棟へ近づくにつれ砂利がだんだん深くなり、カーブでずるっとタイヤが滑りヒヤッとする。

ここか!やっとたどり着いたと思いきや中の道路まで砂利道…。
最後まで気を抜けさせないな…。

管理棟へ行くと、先ほど遠くに見かけたひとがいた。
「キャンプ場利用したいのですが…。」
「3300円になります」間髪入れず案内された。
え?無料じゃないの?!
3300円というのはここにあるオートキャンプ場の利用料金で、
無料というのは先ほど見たキャンプ場とのこと。なぁんだぁ、よかった。
ちなみにこの先にある『ピクニック広場』と呼ばれるところも無料で利用できるらしい。
いやいや、あの道を更に進むのは無理ですわ。危険すぎる。
「ところで、熊って出るんですか?」
「んー…、あまり聞かないけど、、」と小声で小首をかしげる姿。
あまり会話が弾まない。土地柄なのか。まさか不審者に思われてる?
申請書に必要事項を記載し、無事受付完了。
販売品は特になかったが、薪だけ売ってた。白樺の薪だ、700円。

あのダート道をまた戻るのかぁ…、げんなりする。
ちょっと休憩、ともいってられず。
バイクのタンクを両太腿でぎゅっと挟みながら、もと来た道を戻る。
キャンプ場の駐車場。半分以上が先ほどの工事関係者の拠点になっていた。
本来の駐車スペースが圧迫され、キャンプ区画数に見合うだけの空きスペースは確保されていない印象。

駐車場はキャンプサイトより一段高くなっており、階段でサイトへアクセスする。
階段の近くにバイクを止め搬入開始。

これが結構しんどかった。
場内にある管理棟の裏に台車を見つけたのはいいが、階段が急勾配。しかも踏ん張ろうとする足が砂利で滑る。
その先には深い溝があり、台車を引いて最短距離ではサイトへアクセスしずらい。


荷車を引き、溝を渡す鉄格子を通って場内へ入る。
湖畔側に惹かれたが、一番近いウッドデッキを選択した。
どんな場所でも設営できるこの旅の相棒、自立式のアテナワイドーツーリングが頼もしく思える。

ただこのテント、後部一カ所はペグ打ちが必要。

ちょうどウッドデッキにひっかけるところがあったが、
テンションを上げるため周りを取り囲む丸太に縛り付けた。

こういう時、アンカーペグがあればもっと便利なんだろうけどね。

ふぅ。
チェアに腰かけ、眼前にひろがる景色をみる。
うん、いい眺めだ。

気温は22.3℃。
搬入と設営で汗をかいたが、腰を下ろして落ち着くと涼しさを感じる。

さて、と。改めて場内散策しますか。
まずは湖畔のほうへ。
場内は傾斜があり、湖畔のほうへは下っていくイメージだ。
一度駐車場のほうに行き、溝に沿って、てくてく歩く。

駐車場の裏手の奥に、ひっそりと炊事棟があった。
溝を境とした車道側にはウッドデッキはない。


さっきの溝を戻ってまたぎ、湖畔のほうへ向かう途中に水飲み場を発見。
(もらった紙の場内MAPには載ってない場所。)

湖畔近くは平面もあり、水場もあって設営するにも良さそうだ。
でもトイレまでは緩やかな上り坂。駐車場からの搬入出のことを考えるとちょっとしんどいかも。


湖畔へと足を踏み出すと、空が広がり視界が拓けた。
渇水で少し遠のいた水面向こうの対岸には、真っ白な幹を並べた白樺林がどこまでも続いている。
その自然美に、思わず息を呑んだ。(ほんとに人造湖なの…?)

湖面をもっとよく見たくて近づいていく。
なんかここが日本ではないみたいな感覚になる。

気づいたらキャンプ場の最南まで歩いて来ていた。
この景色をテントから見たら最高だろうな。
周りを見回すと、絶好の設営地を見つけた。

搬出入ではなかなか過酷そうだが、ロケーションだけで言えばおそらく優勝する場所。
ウッドデッキではどこが近いか…・
場内南に位置する辺りにウッドデッキが段々と並んでいる。ここら辺なら湖が見れる。

ただねぇ、トイレや炊事場行くのに上り下りしなきゃいけないのよ。
傾斜で路面は土。ここまで整地されてる道があるわけではないし、搬入出も気合が必要。

場内をぐるっと一周歩き終えた。
いつの間にか足がぱんぱんになっていた。軽いトレッキングをしたように疲れた。

テントに戻ると、ほどなくして夜のとばりが降り始めた。
白樺の白が闇に溶け込み、辺りはしんと静まり返っていく。

本日の晩飯は水餃子一本勝負。

スノピのチタンマグを鍋代わりに、餃子をつまみ上げてぽいぽい入れていく。

最近コップとしての使用頻度がおちたが、ソロサイズで水餃子を茹でるにはちょうど良い。
※ダブルウォールはダメですよ。チタン板の間の真空層が膨張して爆発します。
ギョウザにたれがついててよかったぁ。
目の前で茹でたての水餃子をほふほふしながら食べる。

水餃子を食すこと後半戦。
ゴロロロロゥ…、と遠くで雷鳴の轟が聞こえた。
え、まさか、雨?
数分もせず突然大粒の雨が辺り一面を叩くように降り出した。
シェラカップに入れたギョウザのタレが雨で薄まっていく。
強烈な雨粒でシェラカップのタレが外に弾け跳び、フィールドホッパーに付着した。(SOTOではなく外ね…。洒落になってる?)

バケツをひっくり返したというのはまさにこのこと。
ゲリラ豪雨なのか…?
一向に止む気配がない。
スマホは電波を拾っていたので雨雲レーダーをチェック。

なんじゃこりゃぁ…。画面をみて絶句。
雨雲レーダーを見ると、まさに今、自分がいる地点が赤く染まり、ピンポイントで直撃していた。
予測をコマ送りするたび、東から次々と「濃い赤色」の雨雲がこちらへ迫ってくる。
それは一過性の雨などではなく、逃げ場のない猛威が押し寄せている証だった。
まさにその時だった。
激しい雨に混じり、湖のある風下の方から微かに、だが確実に「異様な獣臭」が鼻をかすめた。
「なんだ、この臭い……」
今まで生きてて嗅いだことのない異臭。
その瞬間、思考よりも先に本能が「ヤバイ」と警鐘を鳴らした。
かつて北海道を旅した時に聞いた話を思い出す。
『クマはね、近くにいたら、ニオイでわかるよ。初めてでもね。』
いまこの状況がそうなのか…?!
しかし、逃げるにも外は叩きつけるような豪雨。体は疲弊し、ここは街から遠く離れた山の奥深くだ。
頼れる場所は何一つない。まさに、陸の孤島。
脳裏には場内看板の「熊出没注意」の文字が焼き付いて離れない。
いつもなら、どこのキャンプ場にもある「万が一」の警告だと流せていた。
しかし、この夜に限っては違った。
喜ばしいと思えた「完ソロ」が、これほどまでに恐ろしく、心細い状況に変わるとは。
「何か隠れている、のか……?」
高輝度を誇るWAQのLEDランタンを掴み、最大光量で臭いの漂ってきた湖の方向を照射した。
あまりに強い光が、闇に沈んでいた遠くの白樺の幹を白々と浮き上がらせる。
雨粒が光を反射し、視界を遮る。

しかし、そこに動くものは見えない。 見えてない、だけなのか?!
シカや狸の姿があれば、それで落ち着くのに…。
見えないことが、かえって「闇のどこかに潜んでいる何か…」という疑念を深め、本能を逆なでしていく。

とにかく、いったん落ち着こう。においのするものは消さなければ。
雨脚の強まる中、私は微かに震える手で食器や汚れ物を持ち、ゴミを処理するために動き出した。

冷たい水道の蛇口で、使い終えた食器はもちろん、水餃子の外装やタレの入った小さな袋に至るまで、執拗なほど丁寧に洗い流した。
わずかな匂いすら、この闇の中では致命傷になりかねない。
ゴミ倉庫の扉を、ピシャリと閉められたのは何よりの救いだった。
幸い、私以外のゴミはなく、倉庫内にさえ匂いは漂っていない。
サッシの扉を、一寸の隙間もないよう慎重に閉めた。
「他にも何か対策を打たなければ……」
暗闇が、恐怖を増幅させる。
激しい雨音で他の物音は聞き分けることができない。
灯りがあれば、人間がいることを示せれば、熊は近づかないかもしれない。
キャンプ場には申し訳ないと思いつつも、炊事場の電灯を点けたままにさせてもらうことにした。
そして、内蔵のバッテリーが許す限り、ランタンの光を夜通し灯し続ける。
いつもは無機質に感じる駐車場に点滅する工事現場の赤いライトが、
この時ばかりは、温かな光に思えてならなかった。
さらに、少しでも生存率を上げるための「盾」を作ることにした。
テントの前方には前室があり、荷物も置いている。
もし襲撃を受けたとしても、それがわずかな時間稼ぎ(一時しのぎ)にはなるだろう。
しかし、後方はフライシート一枚隔ててすぐインナーテントだ。
背後を突かれたら、あまりにも無防備で心細い…。
私は雨に打たれながら管理棟まで走り、そこにあった一番大きな荷車を必死に引っ張ってきた。
それをウッドデッキの後方に立てかけ、即席の防護壁とした。
サイドは依然としてがら空きのままだが、何もしないよりはマシだ。
やれることはすべてやっておこうと、冷たい雨の中で自分に言い聞かせた。
テントのジッパーを閉じ、狭い空間に身を潜める。

そうだ、音を出そう。
普段は開くことのないラジオアプリを起動した。
あれ、これどう使うんだっけ。なんでもいいからチャンネルを合わせよう。
緊迫したこの状況とは裏腹に、スマホからは名前も知らないパーソナリティの軽快な声が流れてくる。それが唯一、現実の世界に繋ぎ止めていた。
「熊は鼻が利く」 そんなことをテレビでみた気がする。気休めだと知りながらも蚊取り線香を焚き上げた。

この独特の刺激臭が、鼻の利く獣へのわずかな牽制になるのではないか。
まさに、藁をも掴む思いだった。
クマの嗅覚は犬の数倍、人間の2000倍以上
「全哺乳類の中でもトップクラス」と言われるほど凄まじいとのこと
雨がこれほど激しく、食料の匂いもしないというのに、なぜかテント内をハエが飛び回っている。
テントにこびりついたにおいがあるのだろうか?(失礼な…!)
それとも、まさか見えないアレ…が、呼び寄せているのだろうか。。
蚊取り線香の上を、一匹のカメムシが渦に沿って這い回っていた。
この蚊取り線香、効くのだろうか?確かに蚊はいないようだが…。
うるさいハエがテントの内幕で手をこすって止まっている。
線香の火口を極限まで近づけると、しばらくしてそいつはへなへなと地面に落ちた。
再び雨雲レーダーに目を落とす。 状況は絶望的だった。
依然として雨脚は強まり、翌朝も画面は真っ赤に染まっている。
ただ一点、時間をコマ送りしていくと、朝の5:30から6:00にかけてわずかに雨が止む予報が出ていた。
チャンスは、この30分しかない。
眠れるのかなぁ…。寝ていいのかなぁ…。寝ないと明日に響くしなぁ。
次に目を開けた時が、人生の最期になるのかもしれない…。
そんな最悪の想像が頭をよぎる。
私は祈るようにインナーテントのジッパーを下ろし、寝袋の中へと潜り込んだ。


スマホのアラームが1、2度鳴り、それと同時に私の目はぱちりと開いた。
耳を澄ますと、テントを叩いていた昨夜の激しい音は消え、
雨粒がぽたぽたと落ちる静かな音に変わっていた。
朝、5:00。 ……生きていた。
テントのファスナーをゆっくりと下ろし、外に顔を出す。
昨夜より明らかに弱まった雨脚を感じた。
念のため、周囲を慎重に見渡す。
怪しい物陰も、動く影も見当たらなかった。

そこで初めて、深く、重い胸をなでおろした。
しかし、ゆっくりしている猶予はない。
すぐに雨雲レーダーに目を落とすと、昨晩に続き本格的な嵐の予報。
その合間、今が最も雨が弱い時間帯だと告げていた。
昨夜見た予報は刻一刻と変化し、次の雨上がりの隙間は、6:30からのわずか10分から20分程度。
バックパックの奥底に忍ばせていたパンを取り出した。
シライシパン。ご当地パンかな?

中身は味噌、ツナ、マヨネーズ。
キワモノ扱いとして面白半分スーパーで購入したものだったが、一口食べて驚いた。

これが、意外なほど旨い。
いや、単に味が良かっただけではないだろう。
「今、自分は生きている」という強烈な実感が、その素朴な旨さに拍車をかけていた。
昨夜の死線を超えた体に、パンの甘みと味噌の塩気がじわりと浸透していく。
食べ終わったパンの袋をくしゃくしゃにしてポケットに突っ込むと、
すぐさまテント内の撤収に取り掛かった。
空模様をちらちら意識しながら、なんとかテントの撤収までこぎつけた。
ウッドデッキで良かった。

雨雲の隙間を縫うように、あの大きな盾(荷車)を引いて駐車場までの搬出を開始した。
昨日の搬入時は、重い荷物を抱えて一段一段、階段を降りて荷下ろしをしたが、
帰りは入り口にあるスロープを利用してみる。
…なんだ、こっちの方がはるかに楽じゃないか。
駐車場には、朝一番乗りの工事関係者の車が入ってきた。

バイクへの積載をすべて終え、私はようやく深く、長い一息をついた。
昨夜の恐怖がまるで遠い幻のように思えてくる。
熊なんて、ただの考えすぎだったのかしら…。
今はもう、これからの天候とルートをどう走るか、そのことだけで頭がいっぱいだった。
パタン、と背後で車のドアを閉める音が聞こえた。
中から出てきた工事関係者らしき男性が、こちらへ歩み寄りながら気さくに声をかけてきた。
「おはようございます。……昨日、大丈夫でした?」
「え?」と私は聞き返した。「何がですか?」
すると、男性は事も無げに、しかし私の心臓を凍りつかせる言葉を口にした。
「いや、昨日ちょうどこの道をね、クマの親子が3匹、横切って行ったんですよ。だから気になって」
その言葉を聞いた瞬間、全身の血が引いていくようだった。。
鼻をついたあの獣臭。あれは、私の錯覚でも、臆病な想像でもなかった。
昨晩、私は、間違いなく「奴」の射程圏内にいたのだった。
岩洞湖家族旅行村キャンプ場 まとめ 戦慄のソロキャンプを経て
今回のキャンプは、自然の美しさと恐ろしさ、その両極端を味わう忘れられない経験となりました。
岩洞湖の白樺林は息を呑むほど美しく、静寂の中に身を置く時間はソロキャンプの醍醐味です。
しかし、一歩間違えれば、そこは野生のテリトリー。
これからこの地、あるいは山奥のキャンプ場を訪れる方へ、私の反省を込めた備忘録を共有します。
利用にあたっての基本情報
- 受付: Googleマップ等の地図アプリではこの場所は表示されません。(当ブログ内『基本データ』項目、MAPにピンを立てて掲載しました。参考くださいませ。)
利用受付は岩洞湖家族旅行村の管理棟にて行うのでそちらに直接向かってください。 - 買い出し: 周辺にスーパーやコンビニは一切ありません。事前に盛岡市内で必要なものをすべて揃えておくことを強くお勧めします。
- 立地: 山奥のため、万が一警察に通報しても到着までにはかなりの時間を要することを意識してください。
熊対策:油断は禁物
帰り際に出会った工事関係者の方は「この辺のクマは臆病だから」と仰っていました。
この時はそうだったのかもしれませんが、アーバン・ベアや世代交代等、人を怖がらないクマも出没し、2025年秋以降、岩手県内を含め各地で熊の目撃・被害が急増しているのも事実です。
今回の私の対策が正解だったかは分かりません。
しかし、以下の点は今後の教訓としたいと思います。
- 避難場所の確保: テントは布一枚の無防備な空間。万が一の際は、扉の閉まる場所へ逃げ込むイメージを持っておくこと。岩洞湖家族旅行村キャンプ場で扉があるのはトイレとゴミ倉庫。
車利用なら、即座に車内へ逃げ込める体制を整えておくべき。 - 情報の活用: 最近は熊出没アプリも普及。事前にダウンロードし、周辺の最新情報を収集。
- 装備の備え: ラジオの携行はもちろん、高価ではあるが万が一に備えて熊撃退スプレーを携行。
- 時期と状況の判断: 完ソロは魅力的だが、利用者が多い日を選び、孤立しすぎないことも一つの反省点。
最後に
今回のキャンプで行った私の対策が、決して完全なものだったとは少しも思っていません。
自然を相手に「絶対」と言い切れる準備など、存在しないからです。
結論から言えばいつでも逃げれる体制を整えてていなかったこと、が大きな反省点でした。
その場しのぎの対策は講じたものの、今振り返れば、無事に朝を迎えられたのは単に運が良かっただけかもしれません。
あくまで経験談として参考にしてください。
ただ、あの夜の戦慄と、翌朝に突きつけられた事実は紛れもない現実でした。
この記録が、これからキャンプを楽しむ皆さんの万が一に備えるための、
ひとつの体験談として参考になれば幸いです。
【今回紹介したキャンプギア】


