岡山県との県境、深い山あいにその「無料キャンプ場」は存在する。
中国一周キャンプツーリングの第二夜、目的地に選んだのは「山野峡」という名の渓谷です。
しかし、道中で耳にしたのは地元の住民からの「熊の目撃情報」。
到着したキャンプ場でまず目にしたのは、「熊出没注意」の看板でした。
4つのエリアからなる広大なフィールドに、自分以外の姿はありません。
「この状況で、本当に完ソロキャンプなんてできるのか…?」
切り立った山肌に囲まれ、小田川のせせらぎだけが響く渓谷の底。
期待と緊張が入り混じる中、真っ暗な秘境で迎えた夜は、一体どのようなものだったのか。
実際に山野峡キャンプ場で一晩を過ごした、リアルな体験をレポートします。
山野峡キャンプ場の魅力
- 渓谷の懐に浸る「圧倒的な没入感」
- ライダーを特権的に迎える「専用駐車スペース」
- 無料でありながら「設備が充実」
渓谷の懐に浸る「圧倒的な没入感」

山野峡を象徴するのは、龍頭峡と猿鳴峡という二つの峡谷が作り出す、深く静かな自然の気配です。
このキャンプ場は、いわば渓谷への「玄関口」。
キャンプ場そのものは小田川沿いの穏やかな地ですが、一歩足を踏み入れれば、周囲を切り立った山肌が囲む「自然に囲まれたロケーション」に包まれます。
流れる川の音をBGMに、目の前に広がる自然美に癒やされるひととき。
ここを拠点にして、少し足を伸ばせば龍頭峡・猿鳴峡の絶景へ。
冒険と休息を両立させる、まさにライダーのためのベースキャンプ地に相応しい場所です。
ライダーを特権的に迎える「専用駐車スペース」

このキャンプ場の最大の魅力は、車と比べてバイク乗りへの利点が高い点にあります。
広場と第2キャンプ場には、サイトのすぐそばまで乗り入れられるバイク専用の駐車スペースが完備されているのです。


車の場合、荷下ろしはできても、その後は遥か上にある場外の駐車場へ車両を移動しなければなりません。

しかし、バイクであればサイト内の駐車スペースをそのまま利用できます。
搬出入の移動の手間が省けるだけでなく、何より愛車をすぐそばに置いておけるという、バイクソロキャンパーにとってこの上ない安心感があります。
無料でありながら「設備が充実」
無料でありながら、炊事棟やトイレといった必要最低限の設備がしっかりと整備されています。
コストを抑えつつも、キャンプを楽しめる環境が整っています。
山野峡キャンプ場 基本データ

| 訪問年月 | 2025/10 | 晴/晴 |
| 名称 | 山野峡キャンプ場 | 福山市H.P |
| 場所 | 〒720-2602 広島県福山市山野町 | 084-928-1042・1043 (福山市観光戦略課) |
| 業態 | 市営 | 福山市観光戦略課 |
| ロケーション | 河畔 | 山野峡県立自然公園内 |
| サイト | フリーサイト/区画ウッドデッキ | 土 硬 □□■□□ 柔 |
| サイト規模 | 大規模 | 全4エリア |
| 車両乗り入れ | 不可 | ※バイクのみサイト横駐車場あり |
| 営業期間 | 通年 | |
| 予約方法 | フリー | ※フリーだが電話確認推奨 |
| in / out | フリー | 常識の範囲内。(夜間は暗い) |
| 料金(利用プラン) | 無料 | |
| (内訳) | 使用料 | 0円 |
| 駐車料金 | なし | |
| 設備 | 管理棟:あり | ※夏季のみ開館 |
| (売店:あり) | ※閉館だったため未確認 | |
| (レンタル:不明) | ||
| トイレ:あり | 水洗、和洋混合 | |
| 風呂:なし/シャワー:なし | ||
| 炊事棟:あり | ※飲料不可 | |
| 灰捨て場:あり | ||
| ゴミ捨て場:なし | ||
| その他施設 | ファイヤーサークル、東屋 | |
| 直火の可否 | 不可 | 要 焚火台&焚き火シート |
| 薪の販売 | あり | 400円 ※張り紙にて確認 |
| 薪の現地調達状況 | 難 □□□☑□ 易 | |
| 電波状況 | 弱い | 楽天モバイル |
| 客層(主観) | 利用時完ソロ | ソロ □□☑□□ ファミリー |
| 獣・虫 | クマ、マムシ、凶悪サル | 2024年5月26日クマらしき? 目撃情報あり。 |
| 場内路面状況 | 舗装路 | 狭く急勾配 |
| 買い出し | スーパーマーケット | ディオ 井原店 約19.0km |
| コンビニ | セブン-イレブン 井原芳井町店 約14.7km | |
| 温泉 | 神辺天然温泉 ぐらんの湯 | 約22.1km |
山野峡キャンプ場 予約はどうする
予約は不要です。
但し、利用を検討している時期が営業期間内かどうか、また緊急のメンテナンス等で閉鎖されていないか、事前に福山市の担当窓口等へ確認しておくことをおすすめします。
福山市観光戦略課: 084-928-1042・1043
山野峡キャンプ場 サイトの様子
まずは、山野峡キャンプ場のサイト選びで押さえておきたい共通ポイントです。
- エリア構成: 全4エリア(区画ウッドデッキサイト1、フリーサイト3)
- 設備: 全エリアに炊事棟とトイレを完備
- 地面: 基本的に土(場所により草地あり)
山野峡キャンプ場は、大きく分けて4つのエリアで構成されています。広大なフィールドを持つ一方で、エリアごとにロケーションやアクセス難易度が大きく異なります。ご自身のスタイルに合わせて、ベストな場所を選んでみてください。

山野峡キャンプ場 場内MAP作成

常設テントサイト(最上段エリア)※区画ウッドデッキサイト

森の中にあり、唯一の区画・デッキサイトです。
掲示されたマップには『常設テントサイト』と書かれていましたが、テントは一切ありませんでした。

段差のある場所に位置しているため、他のエリアとは一線を画す静かな空間が広がっています。
バイクを横付けすることはできませんが、より深い自然の中で過ごしたい方や、ミニマムなキャンプスタイルの方に最適です。
広場キャンプ場(利便性No.1)

バイク専用の駐車スペースが完備されており、今回の旅で最も利便性が高かったエリアです。

高台から小田川を見下ろすロケーションで、開放感も抜群。

設営・撤収のストレスを最小限に抑えたい場合や、山野峡キャンプ場が初めてという方は、まずここを拠点にするのが間違いありません。
第一キャンプ場(橋を渡る隠れ家サイト)

橋を渡った先にある、川向の独立したエリアです。


他とは隔離された静寂が最大の魅力。

ただし、搬出入の難易度は少し高めです。
橋の手前で一度停車し、そこからサイトまで距離があるため、道具の運搬には覚悟が必要です。
荷物を厳選した「超軽量スタイル」で、究極の静寂を求める方には最高の隠れ家となるでしょう。
第二キャンプ場(絶景の最奥地)

場内の最奥に位置するエリアです。

こちらもバイク専用の駐車スペースがあり、目の前には美しい川面が広がります。

ただし、広場からそこへ至るまでの川沿いの道は非常に狭く、途中からダート(未舗装路)になります。

さらに、川との間に柵がない箇所もあるため、夜間の移動やバイクの取り回しには十分な注意が必要です。
「少しの冒険をしてでも、一番きれいな景色の中で過ごしたい」というベテランライダー向けのサイトです。
山野峡キャンプ場 施設の様子

前述したとおり、山野峡キャンプ場は各エリアに炊事棟とトイレが完備されています。
無料のキャンプ場でありながら、これだけのインフラが整っている点は大きな安心材料です。
山野峡キャンプ場 管理棟

キャンプ場の入口付近に位置しています。
夏季期間は営業しているそうです。
私が訪れた10月の訪問時は閉館しており、内部を確認することはできませんでした。しかし、掲示されている看板には「飲み物」「薪」の文字があるため、営業時にはこれらが販売されているものと思われます。
ちなみに「薪400円」の張り紙がありました。

山野峡キャンプ場 炊事棟
全エリアに炊事棟が完備されていますが、その外観や設備はエリアごとに全く異なります。


どの炊事棟にも共通しているのは「屋根付きであること」「釜土が併設されていること」、
そして「水は飲料用ではないこと」です。

※飲料水は必ず持参しましょう。
エリア別の炊事棟の特徴
- 常設テントサイト: 他とは一線を画す独特なデザインが特徴です。洗い場と釜土がそれぞれ2つずつ独立して並んでおり、機能的かつ芸術的な作りになっています。

- 広場キャンプ場: 屋根が鉄板を蛇腹状に折り曲げたような形状をしており、工業的で力強い外観が特徴的です。

- 第一キャンプ場: 4エリアの中で最も規模が大きく、広々としています。目を引くのは、水道管に連結された太いアルミパイプ。凍結防止の対策?(※お湯は出ません)

- 第二キャンプ場: 一般的な炊事棟に加え、屋根のないオープンな水場も併設されています。


山野峡キャンプ場 トイレ

全エリアにトイレが完備されており、無料キャンプ場でありながらトイレットペーパーが備え付けられている点は、非常にありがたいポイントです。

基本的には水洗式の「和式便座」がメインですが、一部エリアにはバリアフリートイレがあり「水洗洋式便座」も設置されています。

無料の公営キャンプ場であるため、設備は決して新しくはありません。
山中の施設である以上、季節によっては虫の侵入などもありますが、清潔に保たれていることに感謝し、次に使う人が気持ちよく利用できるよう、来た時よりも美しく使う意識を心がけたいですね。
エリア別のトイレの特徴
- 常設テントサイト: 男女別トイレ。水洗和式便座のほか、バリアフリートイレ(洋式)が併設されています。

- 広場キャンプ場: 男女別に分かれており、中央にバリアフリートイレ(洋式)が設置されています。

- 第一キャンプ場: 男女共用の水洗和式トイレです。個室トイレには鉄の重い扉が設置されているのが特徴的です。

- 第二キャンプ場: 男女別に分かれており、水洗和式トイレのみとなります。バリアフリートイレは併設されていません。

山野峡キャンプ場 灰捨て

炊事場に灰や消し済みを捨てるペール缶が置いてあります。
山野峡キャンプ場 ごみはどうする?
ごみは全て持ち帰りです。
その他施設

常設テントサイト(区画ウッドデッキサイト)の高い位置に、木製の東屋が設置されています。
特に見晴らしが良いわけではありませんが、場内で唯一、急な雨をしのげる貴重な避難場所です。
また広場エリアに公衆電話ボックスが設置されています。(通電確認済)

山野峡キャンプ場 体験レポ:広大な森でたった一人?熊の陰に怯えながらのソロキャンプ

中国地方ツーリングキャンプの2泊目は、岡山県との県境に位置する広島県のキャンプ場を選びました。
昨晩は図らずもお墓のすぐそばでテントを張ることになり、スピリチュアルな体験をしてきたばかりです。
そんな翌日に向かったのは、山奥にひっそりと佇む無料のキャンプ場。
果たしてそこは、どんな場所なのでしょうか。
そして、道中、耳にしてしまった「熊が出る」という噂…。
静寂な森の中で、熊の影に怯えながら過ごした一晩の体験をレポートします。
※道中の~キャンプ場までのツーリングの様子を共に辿りたい方は、このまま下へ読み進めてください。
※キャンプ場の詳細・滞在の様子をすぐに見たい方は以下のリンクから、ジャンプできます。
👉【滞在編】完ソロの洗礼。漆黒の山野峡、スマホで空砲を闇に放つ夜
【道中編】100円たこ焼きを求めて西へ。熊の噂が漂う山野峡までの道程
10月某日。
山野峡キャンプ場の利用にあたり、念のため福山市観光戦略課へ電話をかけた。
「予約は不要ですよ。好きな時にお越しください。バイクですか? 第二と広場なら停める場所がありますので。…ん、第一ですか? あそこは橋があるので、バイクでは通れないと思いますよ。
あ、それから、凶悪なサルが出ますので注意してくださいね」
電話口の担当者は気さくで丁寧な対応だった。
バイクなら第二か広場か…。サルに注意、と。よし、わかった。
それにしてもただのサルではなく、わざわざ凶悪と形容されるサルとは一体…。
仕入れた情報をスマホにメモした。
そうじゃそうじゃ たこ焼きを喰おう

前泊した幡降野営場を出発し、一路広島へとバイクを走らせる。
キャンプ場へ直行する最短ルートもあったが、すべて山道で買い出しスポットがなさそうだった。
念のため総社市を通り、井原市のスーパーを経由することにした。

途中、「岡山桃太郎空港」の看板を横目に通り過ぎる。
中国地方の空港は、どこか独特で個性的なネーミングが多いなぁ。
そんなことを考えながらV-STROM 250を走らせる。
総社市に入った。
「そうじゃ、そうじゃ、ここ来たことあったじゃろ」と、
ネイティブでもないのに、つい無駄に口に出したくなる。
かつて砂川公園というキャンプ場でお世話になったことを思い出した。

目的地はディオ井原店。
昨日食べ損ねた、たこ焼きを食べるために向かう。

駐車場に入り、PAKUPAKUの看板が目に入る。
ちょうど目の前にバイクを止めたが、どうも静まり返っている。何かおかしい。あの貼り紙はなんだ?
まさか…。
貼り紙には『本日は鉄板メンテナンスのため、たこ焼きの販売を中止しております』とあった。

なんてこった。見ると、私だけではなく、何人か店の前で立ち止まり、肩をすくめて去っていく姿があった。ああ、今日も食べ損ねた…。
仕方ない。だが、ディオならそれを補ってくれる食材が豊富だ。
相変わらずのバグった爆安価格。


299円の弁当をメインに据え、199円ののり弁をたこ焼き代わりの昼飯として選んだ。

ディオ井原店

予期せぬクマの出没情報
バイクへ戻ると、またもPAKUPAKU休業の被害者が顔をうなだれながら、隣の車へ戻ってきた。
「お、東京から来たんか? キャンプか、ええのう」
地元の男性が車の窓から顔をだしながら声をかけてきた。
「たこ焼き、食べようと思ったんですけど…」と言うと、
「うんー、残念じゃのう」と肩をすくめた。
「これからどこへ行くんだ?」
「山野峡というところでテントを張ろうと思っているんですが」
「山野峡か。そういや最近、熊が出たって言っとったなあ。なんでも山口から岡山の方までうろうろしているらしいわ。気をつけんといけんよ」
中国地方にも熊がいるのか? まったくもって想定外だった…。
「お、そうそう。たこ焼きは食えんかったけど、大手饅頭を食べたほうがいいぞ。お客さんが来た時に喜ばれるんだ。スーパーにも売っとると思ったけどな」
その言われたスーパーは、ずいぶん前に過ぎ去った場所にあった。
ただ、このあたりで地元に愛される銘菓の名前を知ることができたのは収穫だった。
男性に会釈をし、その場を離れる。
はぁ、まさか熊が出るとは。少し気が重くなりながら、私は山野峡を目指した。
広島入り キャンプ場までの道のり

広島県へと入った。青い空には、白い棒状の雲が横並びに浮かんでいる。

初めて見る形だ。雲の形から天気を予報しようとするが、どんな天気になるのか皆目見当がつかない。
面白いものを想像しようとしたが、それが熊の爪痕のように見えてきた。
いかんいかん、くわばらくわばら…。
「山野峡」の標識が目に入る。

そこからいくつものトンネルを抜け、山道へと入った。
狭く、カーブがどこまでも続く道。ときおり前方には、岩肌を剥き出しにした険しい山が姿を現す。

ナビが示す場所は、一見するとキャンプ場があるような雰囲気ではない。

グーグル先生あるあるか…。黙々と進むと、突如として広い駐車場が現れた。

ここか。 ようやく、山野峡キャンプ場へと到着した。
【滞在編】完ソロの洗礼。漆黒の山野峡、スマホで空砲を闇に放つ夜

バイクを降り、周囲を見渡す。ここがキャンプ場であることは間違いなさそうだ。
どうやらグーグル先生の案内は、今回ばかりは少々的外れだったらしい。
だが、安堵したのも束の間。キャンプ場の看板よりも先に目に飛び込んできたのは、
『クマ出没注意』の看板だった。
先ほどスーパーで聞いた話と合致し、悪い予感が一気に現実味を帯びてくる。

管理棟に目を向けると、扉は固く閉ざされていた。
しかし、無料のキャンプ場でありながら「飲み物」「薪」の文字があることから、売店機能があることに少し驚く。

掲示された場内MAPで、お目当ての「広場」と「第二」の場所を確認した。

いま目の前に広がるのは常設テントサイト?

テントはなく、独特な雰囲気のウッドデッキサイトが並んでいる。
周囲は木々が鬱蒼と生い茂り、どこかじめじめとした湿り気を帯びていた。
場内の入り口には、『車両進入禁止』『積み込み時のみ入場可、終了後は駐車場へ』と書かれた立て札がいくつも立てられている。いったいどっちなんだと困惑する。


「…本当にバイクで入っていいの?」
電話で聞いた話では、確かに「バイクを停める場所がある」と言っていた。
その言葉を信じ、まずは広場キャンプ場へと向かう。

場内はずいぶんと広い。
狭く勾配のきついカーブをいくつか超えると、視界が急に開け、文字通りの広々とした空間が現れた。
とりあえず、V-STROM 250を停車させる。
先ほどまでの鬱蒼とした雰囲気とは一転し、この広場には、どこか穏やかで平和な空気が流れていた。

場内散策:4つのエリア、思考と究極の選択
場内には大きく分けて4つのエリアがある。
今夜の設営地にふさわしいのはどこか。欲張りな私は、ひととおり見て回り妥協なく決めようと思う。
まずは、今いる「広場」。

誰もいない。
トイレと炊事場は完備されているが、何より目を引くのは緑色の公衆電話ボックスだ。
最近ではめっきり見なくなった代物である。

しかし、バイクの駐車場はどこなのだろうか??
今停めている場所には「荷下ろし後は退場せよ」との看板があるのだが…。

なんとなしにトイレの先へ進むと、工事現場で見かけるようなオレンジ色のバリケードが置かれていた。足元には「バイク駐車場」の文字。
「ここか…!」

だが、どうやって辿り着けばいいのか。トイレ前の狭い舗装路を無理やり進むのだろうか。
初見にはあまりに難解な場所にあった。

次に、同じくバイク駐車場があるという「第二キャンプ場」へ向かう。
そこへ至る道は、進むのを躊躇わせる空気を纏っていた。
川沿いの下りダートだが、途中でガードレールが消失する。よそ見をすれば川へドボンだ。

誰もいない。

そこには他の場所よりも強調された「熊出没注意」の文字。
まさかここが現場なのか?

目の前にはエメラルドグリーンの川面が広がり、景色は抜群に良い。

バイク駐車場はここでもトイレの横にひっそりと存在していた。


広場へ戻り、歩いて吊り橋を渡る。名は「かっぱ橋」。
橋の上からは「広場」の全貌が見渡せた。



渡りきった先は「第一キャンプ場」。第二の対岸に位置する。

誰もいない。

景色で言えば第二の方が好みだが、こちらは歩道が整備され、点々とサイトが点在している。
トイレの個室にある、重々しい鉄の扉が印象に残った。

最後に、気になっていた「常設テントサイト」も確認しておく。
勾配のある狭い道。バイクを停める場所がほとんどなく、
トイレを下った先に僅かなスペースがあるのみだった。
荷運びは場外にある駐車場から運び入れるのだろう。

誰もいない。

木々が頭上を覆い、心地よい木陰を作っているが、同時にじめじめ感が漂う。
苔むした石の渡し道は風情があるが、湿気で朽ちたのかトラテープで囲まれたサイトも目につく。

炊事場のデザインが独特なのが印象的だった。

掲げられた二人の男性キャラクターはいったい誰なんだ?
広島だけに、まさかB&Bだろうか?(←あながち間違いじゃなかったりして…w)

結論:今夜の宿営地は「広場」に 決・め・た

すべてのエリアを吟味した結果、私は広場を選んだ。
- ウッドデッキ: 段差が多く、バイクからの搬入出が過酷すぎる。
- 第二: 景観は最高だが、あまりに「熊」の存在が強調されすぎている。万が一出くわした際、夜間にあのガードレールのないダートを走るのはリスクがある。
- 第一: 橋を渡るアドベンチャー感はあるが、孤立感が強すぎる。
この広大なキャンプ場に、今夜は自分ひとり。
もし熊が出れば、被害に遭う確率は1/1(100%)だ。
広場はバイクが駐車可能で、何より見通しが良い。脱出ルートも確保されている。
そしていざとなったら、あの緑色の電話ボックスが私を守ってくれるはずだ。

今まで一度も気にしたことのなく、使ったこともないあの「SOS機能」。
まさか今の時代で、今夜ほどその存在意義を心強く感じることはなかった…。
地元民との遭遇
広場へ戻ると、いつの間にか女性の人影があった。
え? いつの間に? まさか妖精さん達?
一瞬身構えたが、そこにいたのは阿佐ヶ谷姉妹を彷彿とさせる、朗らかな地元のマダムたちだった。
「えー、東京から来たのー!?」
その明るい声に、張り詰めていた空気がふわりと緩んだ。
誰もいない孤独なキャンプ場で、彼女たちから得られた情報はどれも有益なものだった。
まず、一番の懸念事項であったクマについて。
彼女たちによれば、クマが騒ぎになったのはもう2、3年前のことで、それ以降はまったく音沙汰がないという。
「途中のスーパーでクマが出るって聞いたんですが……」と伝えると、
「えー、誰がそんなこと言ってるの?」と笑い飛ばされてしまった。
「え…、誰って、ディオで会ったおっちゃんに…。」(もしかして言ったらわかる狭い世界かと思った。)
だが、クマ以上に警戒すべき存在がいるという。
「それより、いま危険なのはサルよ」
そういえば、役所の担当者も「凶悪なサル」と形容していた話だ。
「ついさっき上でみたのよー。すんごい大きくてね。もー怖かったわ。あれは気を付けたほうがいいかも」
マダムたちの言葉に、再び緊張が走る。だがクマと比べれば戦えるか??
最悪の事態になったら警察を呼ぶしかない、とこぼすと、近くの駐在所までは4kmほどあり、しかも常駐はしていないのだという。頼れるのは自分と、例の電話ボックスだけのようだ。
それにしても、これほど良い場所なのに他に誰もいない。
夏場はかなり繁盛するらしい。
管理棟が開くのも、そのハイシーズンに合わせているようだ。
それでもバイクの利用客は少ないという。
もしや、ライダーにとっては、ここは知る人ぞ知る穴場なのかもしれないぞ。
いろいろと貴重な話が聞けて、本当に助かった。やはり地元の方の話は説得力がある。
「もしよかったら、キャンプしにきませんか?お仲間誘って…」
喉元まで出かかったその言葉を、なんとか飲み込む。
…だって、きてくれれば、確率は3分の1に減るだろうから。(笑)
再びホタルガ 歓迎?の舞
設営場所は、美しい山間と橋を望む川沿いに決めた。
もちろん、いざという時に電話ボックスへ駆け込める位置であることは言うまでもない。

作業をしていると蚊が出てきたため、蚊取り線香を焚く。
すると、煙に誘われるように「ホタルガ」がゆらゆらと現れた。
一匹現れたかと思うと、次から次へと姿を見せる。

関東ではあまり馴染みのない虫だが、中国地方の山間部ではよくお目にかかる種類なのだろうか。
昨日も絡まれた。払っても払っても身体にまとわりついてくる。
なんかこの虫が現れると不吉な予感がするんだよな…。
「虫の知らせ」という言葉は、ホタルガから由来がきてるんじゃないかと思ってしまう。

ひとしきりの準備を終え、ようやくチェアに深く腰を下ろす。

今夜の夕食は、ディオで調達した明太子のり弁当だ。
パッケージは中身が完全に見えない仕様に不安があったが、蓋を開けて驚いた。
なかなかのボリュームである。
299円(税別)という破格の安さでこれほど腹を満たしてくれるとは、ありがたい。

日が暮れるとともに、空気が一気に冷え込んできた。
日中は37.8℃という殺人的な猛暑の中を走ってきたが、手元の温度計を見ると、ここはすでに23.5℃。

わずか数時間で14℃以上も気温が下がったことになる。
山深いこの場所では、下界の猛暑などまるで別の世界の出来事のようだ。
若干肌寒さを感じながら、改めてこの場所の「深さ」を実感していた。
漆黒の山野峡。孤独な夜の防衛策

突然、ヘッドライトの光に照らされた。
車を降りた一人の女性が、目の前の橋を音もなく渡っていく。登山客か、それともキャンプ?。
こんな時間に、しかもその先はやめたほうがいい…と老婆心ながらに案じていたが、
しばらくして戻ってきたようだ。
それが賢明だ、と一人で頷く。
車が走り去ると、再び完全な独りぼっちが確定した。それはそれで心細いのだが…。
周囲はすでに深い闇に飲まれている。

場内では、あの公衆電話ボックスだけが異様な白い光を放っていた。
夕飯を終え、軽い晩酌をしながら、ふとクマのことが頭をよぎる。
日中に出会った地元の人からは「最近は出ない」と聞いていたが、
これほど鬱蒼とした山の中に一人でぽつんといると、どうしても気になってしまう。
テレビで見るクマは、よく川沿いに現れるシーンが印象的だ。
日中の川のせせらぎは心地よいが、夜ここに身を置くと、その音が周囲のあらゆる気配をかき消してしまう現実に気づく。
視界は闇に閉ざされ、背後を振り返ってもそこにはただ、漆黒が広がるだけだった。
そうだ!いいことを思いついた。
幸い電波は通じる。
YouTubeで「クマよけの爆竹音」を検索し、スマホを最大音量にして闇へ向けた。
乾いた破裂音が夜の山にこだまする。川の音に飲み込まれながらも、何度か音を響かせた。

こんなことするなら、いっそ電話ボックスのすぐ隣に設営すればよかったか…。
定期的に空砲を鳴らし、自分自身の安心感を繋ぎ止めた。
そんな時、一匹の小カマキリが遊びに来た。

蚊取り線香の煙をまとうLEDライトの光に集まるのを払ってやるのだが、この小さな客人は何度も何度も同じ場所に戻ってくる。
そのうち不思議と情が通い、カマキリと戯れる時間が、わずかに恐怖を紛らわせてくれた。


昨晩は墓の傍で一夜を過ごし、精神的に鍛えられたつもりでいた。
しかし、今度は姿の見えない獰猛な獣に怯えることになるとは皮肉なものだ。
極限の緊張感の中でも疲労は確実に瞼を重くさせる。
最後にもう一発、闇に空砲を打ち込み、寝床へと潜り込んだ。

サルものは追わず、忘れてた「凶悪」なやつ

スマホの目覚まし時計より早く、川のせせらぎに打ち勝つような小鳥のさえずりで目が覚めた。
無事だったー…。
半袖のままテントの外へ出ると、肌寒さが身を包む。
温度計を確認すると、昨夜からの最低気温は20.4℃を記録していた。
撤収作業を進めるには、これ以上ないほど最適な気温。

昨晩のうちにあらかた片付けを済ませていたこともあり、テントを畳むだけで撤収は完了した。

ふと周りを見ると、作業着を着た市の職員らしき人が、橋の点検を行っている。
昨夜のあの異様な静寂が嘘のように、キャンプ場には日常の風景が戻っていた。
V-STROM 250に跨り、第二キャンプ場側からの鋭角なカーブを慎重に曲がる。
バックミラーに映る山野峡の景色が少しずつ遠ざかっていく。
あ、そういや、あの「凶悪なサル」のこと、すっかり忘れてた。(笑)
【まとめ】山野峡キャンプ場 攻略のためのアドバイス
実際に一晩を過ごして感じた、このキャンプ場のリアルな姿をまとめます。
実際に泊まって感じた「良かったところ」と「気になったところ」
バイクキャンプの優位性

車と比較すると、バイクの優位性が際立ちます。
車の場合、荷下ろしの際は一時的にサイト付近まで入場できますが、その後は山の中を通る場外車道沿いの最上段駐車場まで戻らなければなりません。
この駐車場は人里離れた無人の場所にあり、人知れず誰かが立ち寄る可能性も否定できません。
サイトからは急な勾配もあり、万が一トラブルが起きてもすぐに駆けつけることは不可能です。
そのため、車の方は施錠を徹底するなど、高い自己防衛意識が必須となります。
対してバイクは「第二」と「広場」に限り、専用の駐車スペースがサイトのすぐ側に用意されています。
バイク乗りならここを利用する際、必ず押さえておきたい大きな利点です。
無人なのに管理の行き届いた清潔なフィールド

無料のキャンプ場でありながら、場内には「焚き逃げ」の跡や放置されたゴミがほとんどなく、
きれいに清掃されていました。
この環境を維持してくださっている管理者の方々には、感謝の言葉しかありません。
同時に、ここを訪れる利用者のマナーも非常に良いのだと感じさせられます。
また、トイレにトイレットペーパーが備え付けられているのも、旅の荷物を減らしたいライダーにはありがたいポイントです。
予備までしっかりと常備されており、無料のキャンプ場としては非常にポイントが高いと感じました。
山深い立地と買い出しの注意点
道中、あの広島県の県境からキャンプ場周辺まで、商店らしきものは一切ありませんでした。
一度入場してから買い出しに戻るには、狭い山道を往復するかなりの労力が必要です。
水道水は飲料不可
ここにきて知りましたが、炊事場の水は飲料用ではありません。
野生動物への警戒
「凶悪なサル」や「クマ」の噂が絶えないのは、ここが豊かな自然の一部である証拠なのでしょう。
それ相応の警戒心が求められます。あと「マムシ」注意の看板もありました。
念のためポイズンリムーバーを携帯しておくと気休めになります。
山野峡キャンプ場・攻略のアドバイス
実体験から導き出した、このキャンプ場を安全に楽しむための2つの鉄則を提案します。
食料と飲料水は「完全必携」
キャンプ場内および周辺には、食料や水を調達できる場所が一切ありません。
オフシーズンは完全な無人管理となるため、事前の準備が必要です。
- 入場前の買い出しを徹底: 一度キャンプ場に入ってしまうと、買い出しのためにあの狭い山道を往復するのは多大な労力と時間を要します。市街地で必要なものはすべて揃え、現地では「あとは食うだけ・飲むだけ、または焼くだけ」という状態にしたほうが、調理食材忘れのリスク軽減にも繋がります。
- 水の備蓄は多めに: 炊事場の水が飲めない以上、飲料水は生命線です。水分補給だけでなく、料理用まで、余裕を持った量をあらかじめ確保しておきましょう。
人気のない時は「広場」一択
もし自分以外の利用者がいない「完ソロ」状態であれば、迷わず「広場エリア」を拠点にすることをおすすめします。
- 脱出と避難のしやすさ: 広場は見通しが良く、いざという時の脱出アクセスが他のサイトに比べて圧倒的にスムーズです。
- 緊急時のシミュレーション: 最悪の事態には、硬貨がなくても使える「SOS機能」がある電話ボックスや、扉が頑丈なトイレ周辺を「避難先」として想定しておきましょう。その安心感が孤独な夜の支えになります。
- 撤退する英断: あまりの孤立感や野生動物の気配に「これ以上は危険だ」と本能が感じたなら、無理をせず撤収することも検討しましょう。
YouTubeの「熊よけ音」使用に関する警告

ここで、私が今回行った「YouTubeでの爆竹音再生」について、非常に重要な補足をしておきたいと思います。
動画の作成者様も強く警告されていますが、こうした音源をむやみに再生してはいけません。
特に、自分以外に人がいる環境での使用は厳禁です。
爆竹音に驚きパニックに陥ったクマが、逃げた先で他の人間を襲うといった二次被害の例も報告されているからです。
今回、私は「完全な独りぼっち」という特殊な状況下で、なおかつ脱出ルートを確保した上で慎重に行いましたが、本来はクマを「寄せ付けない」ための事前の対策(鈴やラジオなど)が基本です。
この記事を読んで同様の行為を検討される方は、周囲の状況を十分に確認し、あくまで自己責任における手段であることを肝に銘じてください。
さいごに

このキャンプ場で出会った唯一の地元の方から、「バイクキャンパーはあまり見かけないね」というお話を伺い、少し意外に思いました。
もしかすると、サイトのすぐ側にバイク専用の駐車スペースがあることが、あまり浸透していないのかもしれません。
この記事を見つけたバイクキャンパーの方は、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
ただし、無料の貴重なキャンプ場ですので、大人数で押し寄せたりせず、節度を持って利用しましょう。
また、繁忙期であっても場内の道幅は非常に狭く、離合(車のすれ違い)が難しい箇所も多いため、
入退場には十分な注意が必要だと思いました。

今回は奇しくも、この広大なキャンプ場でたった一人の「完ソロ」を体験するレポートとなりました。
行く当てもなくたどり着いた場所で、なんとか無事に一晩を過ごすことができましたが、やはり万が一のセーフティライン(安全策)はしかと持っておくべきだと思います。
あの状況下では、私でさえ第1キャンプ場や第2キャンプ場の利用はためらってしまったほどです(笑)。
結果的に、より見通しの良い「広場」を選択したことが、精神的な支えになりました。
この記事が、次に山野峡を目指すどなたかの「旅の道標」になれば嬉しいです。
中国地方キャンプツーリングはまだ始まったばかり。
それでは3カ所目のキャンプ場へとレッツゴー。





