いよいよ始まりました、中国一周キャンプツーリング! 今回の旅の舞台は中国地方です。
その記念すべき第1ヶ所目に選んだのは、岡山県赤磐市にある少し変わったキャンプ場でした。
「無料!」
「お寺??」
そんな噂を確かめるべく、前日深夜に東京を発ち、ひたすら西へ。
一気に675kmを走りきり、ふらふらになりながら相棒のVストとともにようやく辿り着いたその場所は、これまでのキャンプ体験を覆すような独特のロケーションでした。
今回は、旅のスタートにふさわしい、知る人ぞ知る穴場スポット「青少年野外活動教育センター幡降(ばんこう)野営場」で過ごした様子を詳しくレポします。
幡降野営場 3つの魅力

- 【非日常】お寺の境内に「愛車と泊まる」という特別感
- 【利便性】無料でしかも「バイク横付けOK」という仏条件
- 【好立地】周辺環境が充実した旅の拠点
お寺の境内に「愛車と泊まる」という特別感
最大の魅力は、なんといってもお寺の境内でキャンプができる点です。
歴史あるお堂や石灯籠を背景にテントを張る体験は、他のキャンプ場ではまず味わえません。
夜、暗闇の中にぼんやりと浮かび上がるお堂のシルエットを感じながら過ごす時間は、まさに「非日常」そのもの。
背筋が少しピンと伸びるような、不思議な感覚でキャンプができます。
無料でしかもバイク横付けOKという仏条件
ここはテントのすぐ横にバイクを置けるため、ロングツーリング特有の重い積載も積み降ろしが楽々。
無料・乗入可という、バイクキャンパーにとっての神条件、もとい仏条件を満たしています。
周辺環境が充実した旅の拠点
山陽ICから約20分とアクセス抜群。
さらに、バイクで15〜20分圏内にスーパーの「マックスバリュ」やホームセンターの「ナフコ」があり、買い出しに困ることはありません。周辺には温泉施設も充実しています。
東京からこの地を一気に目指してきても、不自由なく買い出しができる環境が整っているのは大きな強みです。
幡降野営場 基本データ

| 訪問年月 | 2025/10 | 晴/晴 |
| 名称 | 青少年野外活動教育センター幡降野営場 | 普門院H.P |
| 場所 | 〒701-2225 岡山県赤磐市山口99027 | 086-957-2528 |
| 業態 | 寺営 | 普門院 |
| ロケーション | 境内 | 普門院敷地内 |
| サイト | オートフリーサイト | 草地 硬 □□□■□ 柔 |
| サイト規模 | 中規模 | 全3エリア |
| 車両乗り入れ | 可 | オートキャンプ形式 |
| 営業期間 | 通年 | 定休日:なし(お寺の行事日を除く) |
| 予約方法 | 電話 | 事前連絡必須 |
| in / out | フリー | 常識の範囲内で |
| 料金(利用プラン) | 無料 | |
| (内訳) | 使用料 | 0円 |
| 駐車料金 | なし | |
| 設備 | 管理棟:なし | 普門院にて受付 |
| (売店:なし) | ||
| (レンタル:なし) | ||
| トイレ:あり | 汲み取り和式・水洗洋式(ウォシュレット付) トイレットペーパー要持参 | |
| 風呂:なし/シャワー:あり | 志納金100円 ※要申込 | |
| 炊事棟:あり | ||
| 灰捨て場:あり | ||
| ゴミ捨て場:なし | ||
| その他施設 | 境内施設 | |
| 直火の可否 | 不可 | 要 焚火台&焚き火シート |
| 薪の販売 | あり | 薪 志納金1,000円 |
| 薪の現地調達状況 | 難 □□□☑□ 易 | |
| 電波状況 | 良好 | |
| 客層(主観) | 利用時完ソロ | ソロ □□☑□□ ファミリー |
| 獣・虫 | イノシシ | 最近は出ないのだそう |
| 場内路面状況 | 舗装路 | 山門から急勾配あり |
| 買い出し | スーパーマーケット | マックスバリュ桜が丘店 約8.4km |
| コンビニ | ファミリーマート 御津矢原店 約5.7km | |
| 温泉 | 山陽老人福祉センター | 約8.3km |
幡降野営場 予約はどうする
こちらの野営場を利用するには、必ず事前の電話連絡が必須となります。
普門院(086-957-2342)
幡降野営場 サイトの様子

サイトの主な特徴

- 3つのエリアがある
- オートフリーサイト
- 地面(草地)
幡降野営場には3つのキャンプエリアがあり、いずれもバイク横付け可のフリーサイトです。
好きなところへ設営することが可能です。
地面は草地で場所に寄り硬さが異なるため、サイドスタンドプレートの持参を強く推奨します。

幡降野営場 3つのキャンプエリア
野営場は大きく分けて3つのエリアで構成されており、そのすべてがお寺の境内に位置しています。
山門から近い順(標高が低い順)に、それぞれの特徴をまとめました。

仁王門上の広場

山門をくぐってすぐの場所に位置する、一段低いエリアです。


山門をみながらテントを設営することができます。
他のエリアから離れているため、より静かにプライベート感のある時間を過ごせます。
トイレやシャワーなどの各種施設からは一番距離があります。
山門からトイレのある寺務所までは急勾配の坂道を往復する必要があるため、足腰に自信がない場合は一段上の桜の木広場をおすすめします。

広場の奥まで進むと地面が粘土質になっており、スリップしたような轍あとが見られました。
Vストのような重量車は、雨上がりや夜露でぬかるむとスリップの危険があるため、足元を確認してからの進入、設営をしたほうがよいでしょう。

桜の木広場(おすすめ!)



寺務所のすぐ近くにある、メインになる利便性の高いエリアです。
木製のベンチがひとつ置いてあり、トーテムポールのようなオブジェがあるのが特徴です。


施設利用に非常に便利で、何より見晴らしが良いのが魅力です。
広場の奥まで進むとと落ち葉が堆積し地面がふかふかになっています。こちらもスタックやスリップの危険があるため、足元を確認してからの進入、設営をしたほうがよいでしょう。

杉の木広場(寺キャンするならここ!)

本堂のすぐ隣、野営場の中で最も高い場所に位置するエリアです。


お堂が目と鼻の先にあり、最も「寺キャンプ」らしい厳かな空気感を味わえます。サイト内にトイレがあるため、夜間の利用も安心です。

本堂に近いため、一般の参拝客の目にも触れやすい場所です。
お寺の尊厳を壊さないよう、より一層節度ある行動を心がけましょう。
幡降野営場 施設の様子

場内は山門から本堂にかけて全体的に勾配があり、中段に位置する寺務所周辺のフラットなエリアに主要なインフラが集約されています。
なお、最も高台にある「杉の木広場」にのみ独立した汲み取り式のトイレがあります。

幡降野営場 管理棟(寺務所兼ご住居)

専用の管理棟はなく、山門から本堂へと続く階段の入り口付近にある「寺務所兼ご住居」がその役割を担っています。
受付の場所と設備

道に面した軒下に受付台が設置されています。
ちなみに、周囲を確認しましたが「呼び鈴」の類は見当たりませんでした。
お寺の生活空間にお邪魔する形になるため、こちらから無理に呼び出すのではなく、まずは電話での連絡と書類記入を済ませて待ちましょう。
受付の手順

- 利用確認の連絡: 到着したら、まずは事前に案内されている番号へ電話を入れるか、メッセージを残して到着した旨を伝えます。
- 書類への記入: 受付台に用意されている「利用申込書」へ、必要事項を記入します。
- 対面でのご挨拶と支払い: ご住職やご家族がいらっしゃれば、記入した書類を手渡しします。薪の購入やシャワー利用を希望する場合は、このタイミングで「志納金」としてお渡ししましょう。

幡降野営場 炊事棟

境内に1ヵ所です。
受付(寺務所)と道を挟んで反対側にある建物内が炊事場となっています。

- 設備: 深めのシンクが複数並んでおり、備え付けのスポンジや金タワシが利用可能です。
- 注意点: 場内には大きな釜やガスコンロ等が設置されており、お寺の行事や炊き出しに使用される本格的な施設を共用で遣わさせてもらっている形です。調理器具やコンロ類には触れず、利用は「水場」のみにとどめるようにしましょう。

お寺という場所柄、配慮を持って利用したいものです。
「大切な施設を共用させていただいている」という意識を忘れず、使用後はシンク内の生ゴミを片付けるなど、「来た時よりも綺麗な状態」にして立ち去るのが、作法と心得ましょう。
幡降野営場 トイレ

境内に3ヵ所設置されています。場所によって形式が異なるため、それぞれ詳細を記します。
【トイレットペーパーについて】
受付時の電話で「トイレットペーパーを持参するように」と案内があります。
トイレには備え付けのロールもありますが、それはあくまで予備。
お寺側の負担を減らし、この貴重な野営場を維持していくためにも、自分の分はしっかりと持参するのがここのルールです。
メインのトイレ(寺務所・ご住居横)


- 仕様:水洗の洋式便座で、ウォシュレットも完備されています。
- 手洗い場:ありません。
- 注意点:ご住居のすぐ外にあり、実質的にプライベートな場所(生活圏内)に立ち入る形になります。静かに入退室するなど、より一層の配慮を持って利用しましょう。

杉の木広場のトイレ/炊事棟裏の道沿いにあるトイレ



- 使用:木造の建物で和式、汲み取り式(男女共用)です。
- 手洗い場:杉の木広場のほうにはトイレの外に手洗い場がありますが、鏡等はなくコンタクト利用者は排水口に誤って流してしまわないよう、炊事棟を利用したほうが良さそうです。
- 注意点:スマホやバイクの鍵などの貴重品を便器内に落とさないよう細心の注意を払いましょう。

幡降野営場 シャワー



炊事棟建物横に併設。杉の木広場へと向かう動線上に個室ブースが1つ設置されています。
- 利用方法: 受付時に事前の申し込みが必要です。申し込み後に開錠され、それ以降は好きなタイミングで使用可能になります。
- 設備: 内部はシャワーカーテンで仕切られており、脱衣スペースとシャワースペースに分かれています。
- 利用のヒント: 密閉性が高く、内部に湿気がこもりやすい構造です。着替えが湿るのが気になる場合は、ブース外にある机をうまく活用して荷物を置くのがおすすめです。
幡降野営場 灰捨て

指定された場所に廃棄することが可能です。
- 注意点: ドラム缶やペール缶などの容器が用意されているわけではなく、指定された土の上にそのまま廃棄する形になります。燃え残った火種がある状態で捨てると、周囲への延焼やトラブルの原因となります。必ず「完全消火」を確認してから廃棄するようにしましょう。
幡降野営場 ごみはどうする?
すべてのゴミは持ち帰りです。
幡降野営場体験レポ|境内仏域でテント泊?

中国地方一周、キャンプツーリングの幕開け。 初日の目的地として目指したのは、岡山県赤磐市。
ルートを検討中、『無料キャンプ場』をいうワード検索でGoogleマップで偶然見つけたのは
「幡降野営場(ばんこうやえいじょう)」という名のキャンプ場。
予約方法を確認すると、なんと「お寺が管理している」という極めて珍しいパターンでした。
いったいそこはどんな場所なのか。
東京から675kmという長距離走行の果て、愛車Vストローム250と共に辿り着いたその場所は、想像を遥かに超える、唯一無二の稀有なロケーションでした。
記念すべき一泊目。その実態に迫るキャンプの様子を詳しくレポートします。
午前1時のハイウェイ。東京~岡山を夜駆けで繋ぐ、中国地方一周の幕開け

前日深夜、中国地方一周のための大荷物をバイクに積みこんだ。
日を跨いだ午前1時。東京から高速道路で岡山県を目指す。
思えば西へ向かう時は、いつも夜駆けがスタンダードだ。 (深夜割もあるというわけで。)
10月の夜風は冷える。ライダージャケットを着込み、漆黒のハイウェイに突っ込んだ。

相変わらずの眠気との闘い。そしてどの季節でも決まって寒い、新名神・甲賀の山越え。



最初の目的地と定めたスーパー「大黒天」に着いた時には、11時30分を回っていた。

暑い…。10月だというのに、真夏のような酷暑だ。
腕にまとわりつくジャケットを無理やり引っぺがし、エコバッグを取り出す。
そこへ、ぺたぺたとサンダルをはいた一人の老人が近づいてきた。
「東京から来たんかな?! よう来たなあ。これから広島へ行くんか?」
「いやいや、ここ、岡山が、目的地なんですよ」と返す。
「そうかぁ…。」
話を繋げるため何か言いかけようとしたが、自分の言いたいことだけを言い残し、そのまま去っていった。 これ、岡山あるあるなのか??
大黒天グループに来たのは、朝兼昼飯に「100円たこ焼き」を食おうともくろんでいたからだ。
しかし、残念なことにこの店舗には『PAKU-PAKU』がない。
店内の陳列もなく、見事な肩透かしを食らった。

だが、弁当と惣菜の「バグった価格」は健在。
まずは299円の寿司を軸に、初日の食料を買い込んだ。
ザ・大黒天 備前店

岡山ルール?0.5秒の右左折
買い出しを済ませるとガソリンスタンドにだけ寄り、脇目も振らずキャンプ場へ向かった。
道中、二度三度と肝を冷やす光景に遭遇した。
前方の車が、わずか0.5秒で予備動作もなく右左折を決めていく。
姫路ナンバーほど荒くはないが(?)、これも「岡山あるある」なのか?。
…車間距離には細心の注意を払わねばならない。

街を抜け、住宅地へと入り込む。
ナビに従い進むと次第に田んぼが広がり、人里離れた山の中へと誘われていく。

やがて、重厚な寺の山門が現れた。

さて、管理棟はどこかしら。
山門の横に薪が積んである。隣にある民家がそうだろうと当たりをつけ、平らな場所を慎重に選んでバイクを止めた。

「ごめんくださーい」
中から出てきたのは、意外にも外国人の方だった。話しぶりからどうやらここは受付ではないらしい。失礼しました…。(※全く関係ない民家でした…。)
一度、境内に入るのだろうか。
勝手が分からず、仁王門の先をバイクでそのまま踏み込んでよいものか迷う。
だが、おそらく寺務所か何かで受付をするんじゃないかな。
あてもなく。意を決し、目の前に立ちはだかる急坂に向かって、アクセルを入れた。

キャンプ場マニアの血がたぎる?寺の境内にキャンプ場?!

山門からの坂道を登りきると、本堂へと伸びる長い階段が目に飛び込んできた。
その右側に建つ家屋。
道に面した軒先に簡易なテーブルと椅子が置かれており、そこが受付であるとすぐに分かった。

だが、誰もいない。家主を呼ぼうにも、どこにも呼び鈴が見つからない。
ふと掲示物を見ると、一枚の張り紙があった。
そこには電話番号と共に『ご利用確認の電話かメッセージをお願いします』との一筆。
さっそく電話をかけたが不在のようだ。
ひとまず、到着した旨を告げるメッセージを送り、返信を待つことにした。
手持ち無沙汰にその場に佇んでいると、掲示された場内案内図が目に留まった。
驚いた。お寺の境内が、そのままキャンプ場なのだ?!

今まで日本全国、数々の野営場を渡り歩いてきた。
サイト内に鳥居が鎮座する天草のキャンプ場に驚かされたこともあったが、ここはそれ以上の衝撃だ。
てっきりキャンプ場が他にあり、たまたまご厚意でお寺さんが管理委託をうけているものだと思っていた。
『お寺という仏域でテントを張り、一夜を明かす。』
四国の宿坊とはまた、趣が根本から異なる。
この非日常感を前にして、自称キャンプ場マニアの血がたぎらないはずがなかった。
山門から続く坂道の両端、そして本堂のさらに奥へと伸びる道。
一体どこを、今夜身を預ける「最良の地」にするか。
管理人さんが現れるまでの時間を使い、未知なる境内サイトの探索へと踏み出した。

【場内散策】一番「寺キャンプ」を堪能できるサイトはどこか?
まずは受付に近い「桜の木広場」へ。

広々とした平坦な地には木製のベンチがぽつんと置かれ、境内でありながらネイティブアメリカンを彷彿とさせる、不思議な色彩のトーテムポールが立っている。
中間地点に立つと、高台ならではの抜けた景色が目の前に広がった。

しかし、奥へ進むほど堆積した落ち葉が深く、足を踏み出すたびに沈み込む。バイクで入り込めばスタックしてしまいそうな予感がした。
続いて、一段下にある「仁王門上の広場」へ足を運ぶ。

上の段に比べれば眺望は控えめだが、山門を眼下に望むロケーションは「寺キャンプ」の趣を十分に感じさせてくれる。
地面の草はきれいに刈り取られていたが、奥のほうは粘土質らしく、スリップしたような轍の跡が残っていた。
施設移動のたびにこの坂を往復するのは少々億劫だが、寺らしさを味わうには悪くない場所だ。

さて、残すは最上段の「杉の木広場」。

まさか本堂へ続くこの急な階段を上り下りするのかと、一時は候補から外しかけたが、幸いにも迂回できる回り道を見つけた。


サイトに足を踏み入れると、思わず息を呑む。

本堂がすぐ横に鎮座しているのだ。山側を仕切るように並ぶ寄付者の石碑、そしてサイト内に設置されたトイレ。

眺望こそ木々に遮られているが、圧倒的に「寺キャン」と呼ぶにふさわしい雰囲気がある。
設営地は決まった。一番趣の深い、この最上段にしよう。
ご住職に聞いた境内サイトの意外なルーツ
受付に戻ると、ちょうど一台の車が上がってきた。 中から現れたのは、にこやかな表情のご住職だ。
「キャンプのひとかね? おや、東京からか。今日はあんたひとりきりな」
なんと完ソロ。だが場所が場所だけにちょっと心細い。。
柔らかな言葉で話しかけてくれたご住職に、気になっていたことを尋ねてみた。
なぜ、境内をキャンプ場として開放しているのだろうか?
伺えば、ご自身も若い頃にボーイスカウトを経験されていたのだという。
そんなかつての縁があり、今こうしてキャンパーを受け入れてくださっているらしい。
なるほど、それであのトーテムポールがあったのもうなずける。
利用申込書をみると、日本語版だけでなく英語版も用意されていた。
聞けば、外国人観光客も頻繁に訪れるのだという。インターナショナルなところも垣間見える。

「お大師様の像がありましたが、真言宗ですか? あれをあそこまで運ぶのは相当大変だったんじゃないですか」
私の問いに、ご住職は楽しそうに笑って応えてくれた。
「あぁ、あれな。地震の時は転がってきやせんかと冷や冷やしたんよ。錫杖がぶるぶる揺れてな、面白いけぇ動画でも撮ってやろうかと思うたんよ」
ご住職の語り口があまりに愉快で、思わずこちらも吹き出してしまった。
お寺の住職さんらしい、どこか達観したようなユーモアのある語り口に、すっかり引き込まれてしまった。
シャワーの利用を申し込み、温かな余韻に浸りながら、いよいよ決めていたサイトへと向かった。

【本堂横に設営】お大師様に見守られ、法事のような昼食を
杉の木広場へ向かう。ここもバイクの乗り入れ許可は得ている。 さて、どこに張るべきか。

日陰のある高台の縁に目をつけたが、草刈りの跡に溜まった草だまりから、蚊が大量に湧き出してきた。こいつぁーたまらん。
ならば、せっかくの機会だ。お大師様に見守られながら設営することにしよう。

とはいえ、真正面はさすがに恐れ多い。
お大師様からの視線を若干外し、背後に本堂を望む位置に陣取った。

時刻は15:00。
昨夜から一睡もせず、昼飯も抜き。到着時の高揚感でハイテンションだったが、
設営を終えた途端、どっと疲労が押し寄せてきた。
本堂へと続く小上がりのような階段に腰掛け、299円の寿司折りを開く。
寺で寿司を食っていると、まるで法事の席にいるような錯覚に陥るが、これはあくまでキャンプ飯。
なんとも不思議な、形容しがたい感覚だった。

食後、改めて本堂をお参りする。
この場所を無料開放してくださっているお寺のご厚意に対し、気持ちばかりのお賽銭で感謝を伝えた。

時折、参拝者が訪れるが、こちらのテントを気にする様子は微塵もない。
境内にテントがある光景は、ここでは日常の一部なのだろう。

焚き火の準備をしようと山の方へ目を向けると、木々の間に白いものが立っている?

よく見れば、それはお墓だった。 なぜこんな山間に…。さすがに少し背筋が寒くなる。
深追いはせず、遠慮がちに必要な分だけの薪を拾い、その場をすぐ後にした。

シャワーを借り、戻る頃には、辺りはすっかり深い闇に包まれていた。

夜の寺がもつ本来の姿とは。焚き火が歪める「現世と異界の境界線」

山門まで、誰の姿もない。この広大な境内にテントを張っているのは、自分ただひとり。
本堂の方に、仄かな灯籠の明かりが灯っている。
一人きりの心細さに耐えかね、私は焚き火に火を灯した。

頭上を轟音と共に夜間飛行の機体が横切っていくが、それが過ぎ去れば、また耳が痛くなるほどの静寂が戻ってくる。
「今夜は満月か」

暗闇に差し込む月光が、周囲の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせる。
白い石碑が闇にぼおっと浮かび上がり、一本の杉の木が異様な存在感を放ちながら夜空に突き刺さっていた。
ふと、奥の闇から「何か」の気配を感じる。
得体の知れない、何かにじとっと見据えられている気分…。

山のほうからは、無秩序にラップ音が響いてくる。どう聞いても、地面に落下した枝の音ではない。
そしてその音がする先は、紛れもなく墓地だった。
もしその先に、何か動くものが見えたら…。だめだめ!そんなことを考えてはいけない。
そちらを見ないように無理に視線を逸らした。
思えば、寺でキャンプができるという事実に浮かれ、より寺らしい場所を求めて設営した。
だが、今になって冷静さが戻ると、根源的な疑問が鎌首をもたげる。
『そもそも、人はなぜ夜に寺を訪れないのか。』
お寺は本来、俗世とは隔絶された仏の世界だ。
昼間は参拝客で賑わう「公共の場」として認識できるが、夜になり灯りが消え、人の気配が絶たれると、その場所は本来の「異界」としての性質を剥き出しにする。
その境界線を越えることへの本能的な忌避感が、夜の立ち入りを躊躇させているのではないか…。
まさか、この焚き火が意図せず「迎え火」の役割を果たし、現世と異界の境界線を歪め、あちら側の気配を不用意に招き入れてしまったのではないだろうな…。
そんな後悔が、どす黒く脳裏をよぎる。
急に、真夏とは思えないほどの悪寒が全身を駆け抜けた。
薪をくべる手を止め、今度は「送り火」のつもりで火を最小限に抑える。

こういう時、お遍路で覚えた般若心経が役に立つはずだった。
当時はソラで唱えられたはずなのに、なぜか後半に差し掛かると、言葉が喉に詰まって継げなくなる。
―やばい、だめだ。疲れているんだろうか…。
唱えることを諦め、その場から逃げるように寝床へと潜り込んだ。

己と対峙した、たった一晩の「修行野営」
翌朝、空は雲一つない快晴だった。

ふと、昨晩に得体の知れない気配を感じた山の方向を見る。
そこにはなぜか、一箇所だけぽっかりと穴が開いたような「黒い空間」が、朝の光の中でも異様に際立っていた。

一体、何だったのか。あの闇の奥から、誰かが見ていたのだろうか。
いやいや、考えすぎだろう。もう過ぎたことだと無理やり思考の隅へと追いやった。
陽が昇るにつれ、再び殺人的な熱気が立ち込めてくる。撤収を終える頃には、体中から汗が噴き出していた。午前9時の時点で、気温はすでに40℃を超えていた。

「10月だぞ…。日本はどうなっちまったんだ?」
その酷暑の中、周りを、ぼてりとした体躯の黒い影がひらひらと舞い始めた。

漆黒の羽に一本の白い帯を走り、謎に頭部だけが赤い。
まるで昨晩の闇から滲み出してきたかのようなその蛾のような羽虫は、
一匹、また一匹と増え、執拗に身体にまとわりついてくる。
湿り気を帯びた羽ばたきは、何かを告げようとしているのか、あるいはこの場から去るのを引き留めているのか。
手で追い払いながら、汗だくで撤収を完了させる。

再びシャワーを浴びさせてもらい、日陰で新しい戦闘服に袖を通した。
なんと、日陰と日なたでは10℃以上も違っていた。



こちらを向いているお大師様に黙礼をし、相棒のVストロームに跨った。

住職の姿は見えなかったが、奥様へ深くお礼を伝え、山門を出た。

ふと昨晩のことを振り返る。
誰に強要されたわけでもない。好きで設営した場所で、図らずも己の精神の弱さと対峙する。
それはまさに、修行と呼ぶべき一晩だった。
だが、この夜を越えた今、不思議と自信が湧いた。
この一晩を過ごせたのなら、もう他のどんなキャンプ場でも恐れることはない、と。
でも次来たら、『桜の木広場』にしようっと。
私はスロットルを回し、次の目的地へと突き進んだ。
幡降野営場 まとめ

実際に泊まって感じた「良かったところ」と「怖かったところ」
仏域でのテント泊という稀有な体験と、ライダーに寄り添う環境

日本全国を探しても、境内という神聖な領域にテントを張れる場所は極めて稀有な存在です。
長距離を走るライダーにとって、バイクの横付けが可能で無料という環境は非常にありがたく、さらに志納金100円で利用できるシャワー設備まで完備されている点は、旅人にとって何にも代えがたい利便性です。
ご住職が管理されているという「寺」という性質上、無料のキャンプ地でありながら、治安上、この上ない安心感があります。
己の精神力を鍛える修行場


夜が更けて周囲に誰もいない「完ソロ」の状況になると、境内という環境ゆえか、
昼間とは全く異なる空気感に包まれます。
普段は踏み入れることのない夜の境内に身を置き、己の精神と向き合う修行のような時間となりました(笑)。
もしそのような環境が苦手な場合や、完ソロとなった場合は、利便性も考慮して「桜の木広場」への設営をおすすめします。
手作り感のあるトーテムポールが気持ちを癒してくれるでしょう。
もちろん、己の精神力を試したいという方は、ぜひこちらの「本堂横サイト(杉の木広場)」を強くおすすめします。
最後に

寺院という場所にお世話になる以上、仏教への敬意を忘れず、節度を持って利用したいものです。
テントを張らせていただいているという感謝の念を込め、本堂へ参拝することは、この聖域へ足を踏み入れる旅人としての最低限の作法であると考えています。
聖域をお借りしているという自覚を持ち、常に配慮を忘れないこと。
お寺ではシャワー代のような対価を「料金」ではなく「志(しな)」と呼ぶことがあります。
「サービスに対する支払い」という商売のやり取りではなく、「この場を維持・管理してくださる活動に賛同し、敬意を表すために供える」という感謝の交換であると理解すること。
使う側と受け入れる側、双方が気持ちよく過ごせるような心掛けこそが、こうした特別な場所での滞在には不可欠だと思いました。
最後に、私一人のために快く場所を開放してくださったご住職、ならびにご家族の皆様に、心より感謝を申し上げます。
合掌。




